女性らしい優しさと巧みな技量が光る工芸品
最上位の名を持つ縁起木を、匠の手で彫り上げる飛騨の伝統工芸『一位一刀彫』
岐阜県の県木でもある“イチイ”は、昔この材で笏をつくり、天皇即位の折に献上したところ、美しさや質の高さが高く評価され、位階の最高位である「正一 位」の位を与えられたというほどの銘木。このイチイを使った『一位一刀彫』は、江戸時代に根付彫刻師の松田亮長があみだしたとも伝えられる国指定の伝統工 芸品です。制作には樹齢四〜五百年を経た貴重なイチイ材を使用。優れた技を持つ飛騨の匠の手により、仕上げまでノミだけで彫り上げます。そのため作品には 鋭い刃跡がいくつも残るのが特徴。表面には着色なども行いません。緻密な年輪が作り出した美しい木目や、赤太(内側の材)と白太(外側の材)でくっきり分 かれた色彩の対比など、天然木の持つ独特の表情を活かしながら、個性的で唯一無二の銘品がつくられています。
吉祥のモチーフ蓮・蛙・雀で新年をお迎え
■飛騨の匠の手により、江戸時代から連綿と受け継がれてきた一位一刀彫は、鋭い刃跡や無着色の木目など、迫力ある美しさが魅力の伝統工芸品。そこに女性らしい柔らかさや優美さを加え、新たな表現を打ち立てたのが、若手現代作家の東直子氏です。今回は新年にふさわしい東氏の傑作『蓮の実に蛙』『福来雀』をご紹介します。
■『蓮の実に蛙』は、種子が多く多産の象徴である蓮と、「無事帰る」など招福開運の印である蛙を題材にした作品。枝のてっぺんに陣取り、悟ったように下界を眺める蛙と、必死に追い縋ろうとする蛙の対比が秀逸です。東氏はこの二匹を「(同じ伝統工芸作家である)父と自分のよう」と述べており、作者の内面や葛藤が色濃く投影されている様子。蛙のピンと張ったか細い手足や、味わい深い表情など、作者の高度な技量とあわせ、鑑賞上も興味が尽きないポイントです。また蓮の実は、同じ一位材の白太と呼ばれる部分でつくり、ころころと動くように面白く仕上げてあります。
■『福来雀』は、丸々太った冬の「ふくら雀」をモデルにした愛らしい作品。もともと雀は厄をついばむとされ、また「ふくら」が「福が来る」につながることから、富と繁栄の象徴ともされています。本作は、ツンと上を向いた嘴やつぶらな瞳が何とも愛嬌たっぷり。大きなお腹には沢山の福が詰まっているのでしょうか。一方、羽根の繊細な刃跡からは、作者の緻密で優れた表現力も堪能できます。
■優しい感性と、伝統の匠の技で彫り上げた東氏ならではの一位一刀彫。敷物のちりめん袱紗を無料謹呈いたします。ぜひお部屋や玄関などに飾り、新年を快くお迎えください。
銘入り
東直子 略歴(彫号・直)