「能郷白山(のうごうはくさん)のいただきに見守れながら日々を暮らす根尾谷の里。
そこにたたずむ千五百年の樹齢を保つ淡墨桜が、また今年も花をつける。
力強く四方に伸びた枝々に咲きあふれる花は、命がほとばしる様子を思わせ、
夜が朝に移りゆくなか燦爛と桜花を散らせる荘厳な姿に、私たちは感動する。
脈々とした桜の生命力を、この絵から感じていただければうれしく思う。
佐野せいじ
幽玄の世界に咲き乱れる『根尾の淡墨桜』
彫師・摺師、三者の技の見事な結晶
「根尾淡墨桜」は岐阜県本巣市根尾にある樹齢千五百年を数える彼岸桜。幹の周囲は約10m、枝は最大27mにも広がる国の天然記念物です。古墳時代の継 体天皇お手植えの伝説を持つ「根尾淡墨桜」。幾度も枯死の危機に遭いながら、238本もの若根を接ぐ大事業を指揮した前田利行氏や作家宇野千代氏らの尽力 により、いまなお春には満開の花を咲かせ、悠久の歴史を刻んでいます。
日本人の心のふるさとを描き続ける佐野画伯
現代木版画界の旗手、佐野せいじ画伯。四季が織りなす古き良き日本の美、日本人の誰もが胸に浮かべる懐 かしい風景を、抒情ゆたかに描く名匠です。NHK大河ドラマ「秀吉」放送時には、記念作品の制作に携わり、また、多くの雑誌などの表紙絵を依頼されるな ど、その実力は広く知られています。
伝統の木版画技術による、丹念な手作業仕上げ
本作品は江戸時代の浮世絵と同じく、伝統技法にのっとった手彫り・手摺り《木版画》です。熟練の技を 持つ彫師・摺師の手による25版40度摺りの丹念な仕上げ。一点一点すべて手作業で、緻密な描線、微妙な色彩、画伯の心情までを余すところなく表現してい ます。こうして仕上げられた作品を佐野画伯自らが厳しく校閲。完全と認めた作品のみ落款を押し、作家自筆により作品名とエディションナンバー、サインが書 かれた公認作品をお届けします。
佐野せいじ 画伯 略歴
昭和34年 静岡県磐田市に生まれる。
昭和59年 木版画家・井堂雅夫に師事、木版画を始める。当時から一貫して、古きよき日本の風景を題材に選ぶ。平成4年 井堂雅夫と二人展。
平成5年 『故郷の四季』四部作発表。初の個展『心の故郷』展を開催。以後、毎年各地で個展を開く。この頃より独自の精緻な画風を築 く。
平成6年 岐阜三大桜『荘川櫻』発表。以後、桜の名品を次々に手がける。
平成8年 NHK大河ドラマ「秀吉」放送記念作品制作。これを契機に、広くその名が知られる。
平成9年 「短歌にたくすはがき歌」(河出書房新社)表紙絵『晩秋』。 同シリーズの表紙絵は計6冊を数える。平成10年 初の木版画集『ふる里の憧憬』出版(河出書房新社)。翌年、出版記念展も開催。
平成15年 私の心の歌「秋」(学習研究社)に『実りの秋』が、棟方志功、東山魁夷などの作家とともに掲載される。
平成17年 創作活動20周年記念作『根尾淡墨桜』発表。現在NHK文化センター木版画講師も務める。