伝えるは女性としての芯の強さ、そして、晩秋の風に散りゆく紅葉に揺らぐ乙女心。
日本女性の流麗な立ち居振る舞いを斬新な構図で表現した詩情あふれる世界。
尊さを感じさせる和美人の所作
■紅葉の葉を乗せて吹き抜ける一陣の秋風。古風な淡い青の着物の襟を大きく抜いた美しい町屋の娘が、風の方を見やり、鮮やかな赤が覗く袖口でそっと手を包む様子が印象的です。
■理想の女性像を追求し、文化勲章に輝いた上村松園。『深き秋』は女性初の名誉に浴した年に描かれた円熟期の作として知られます。この時期の松園作品は浮世絵など、古典絵画の影響を強く感じさせ、中でも本作は屈指の評価を獲得しています
■一目で伝わる女性としての芯の強さ、晩秋に散る紅葉に揺らぐ乙女の感情。これは背景の余分なものを削ぎ落とし、人物を大きく配置する斬新な構図の成せる業です。人物の存在感を圧倒的に際立たせるこの手法は、松園の十八番として有名です。
■また、帯の先に描かれた「蘭菊」の文字は松園が遺した俳句「蘭菊に母の姿の見へかくれ」に由来。これは女手ひとつで身を粉にし、自身を超一流の人間に育 ててくれた母に対する思慕の念の表れです。その母から内面を表現する重要性を学び、その心を投影した晩年の詩情あふれる傑作。日本女性の流麗な立ち居振る 舞いを感じさせる本作をご堪能ください。
軸装
額装
文化勲章受章画家 上村松園 略歴
明治8年 京都の下京区四条通御幸町の葉茶屋「ちきり屋」の次女として生まれる
明治20年 京都府画学校(現:京都市立芸術大学)入学、四条派の鈴木松年に師事
明治23年 第3回内国勧業博覧会に「四季美人図」を出品、一等褒状受賞(この絵を、来日中のヴィクトリア女王の三男アーサー王子が購入し話題となる)
明治26年 幸野楳嶺に師事、市村水香に漢学を学び始める
明治28年 楳嶺の死去にともない、竹内栖鳳に師事
明治33年 日本絵画協会・日本美術院連合展で 「花ざかり」が銀牌を受け、画壇での地位を固める
明治35年 長男・信太郎(松篁)が誕生
明治36年 『志ゃぼん玉』制作
大正3年 間元町竹屋町に画室竣工
昭和6年 ベルリン日本美術展に「虫干」を出品、ドイツ政府の希望により同作品を国立美術館に寄贈、赤十字賞を受ける
昭和11年 新文展(文部省美術展覧会)の招待展に『序の舞』を出品
昭和16年 帝国芸術院会員となる
昭和19年 帝室技芸員となる
昭和23年 女性として初の文化勲章受章
昭和24年 死去、従四位に叙される、享年74歳